kramija’s blog

アニメの女の子と現実のオタクの話をします。Twitter:Pasupu_otaku

三次元化する二次元アイドル

 空想の次元(=二次元)に住む少女たちは、常に現実の次元(=三次元)からの介入に対して無力です。仮に僕が○○ちゃんは俺の嫁!と宣言してしまえば、彼女と僕との空想世界において彼女は僕の嫁になってしまいます。二次元の少女に拒否権はありません。しかし、元をたどれば二次元コンテンツというのはそういう目的のために設計されたものであり、そのような“消費”行為は正当なものでありました。こと一人称視点で美少女たちと人間関係を形成していくいわゆる恋愛アドベンチャーゲームの類はその最たる例で、“介入”そのものが主軸となってゲームが展開されます。我々は超越的視点から、選択肢によるルート分岐により発生した平行する複数の可能世界を一度に俯瞰することが出来るのです。

 

 

 二次元アイドルゲームもその例外ではありません。我々はプロデューサー、あるいは支配人という一人称視点に立ち少女たちを育成します。この際我々と少女たちの間には一対一・唯一無二の関係性が形成されますが、当然ゲームのユーザーは私一人ではないため、ユーザーの数だけ一対一の関係性が存在します。これは平行世界の存在を示唆します。つまり、私がプロデュースする少女Aと別の誰かがプロデュースする少女Aは、同じ名前・容姿でありながら平行する別世界に住む全く別の人間であるわけです。いや、“あった”と言ったほうが正確かもしれません。

 現在、二次元アイドルコンテンツには大きな変化が訪れようとしています。それは、“二次元アイドルの三次元化”です。現在、二次元アイドルは、超越的視点からの介入に対して急速に“閉じ”つつあります。

 二次元アイドルコンテンツの金字塔たるアイドルマスターシリーズは、当初はプロデューサー、つまりプレイヤーである我々の選択によりそのエンディングが大きく変化する仕様であったと聞きます。しかし現在広くプレイされているアイドルマスターシンデレラガールズスターライトステージ、いわゆるデレステにおいて選択肢は形骸化し、どんな選択肢を選ぶかがストーリー展開に影響を及ぼすことはなくなっています。こうなれば最早プロデューサーは我々ではない誰か別の人間であると言えましょう。ストーリーは我々からの介入を必要とせず、ゲームの中のプロデューサーとアイドル、あるいはアイドル同士の相互関係のみで自立的に進行するようになったのです。

 この変化の原因に関しては、ゲームの媒体がソーシャルゲームに移ったことに拠るところが大きいと僕は考えています。ソーシャルゲーム運営の極意は“縦に長い”運営を行うことで長期間にわたり(少し言葉は悪いですが)ユーザーから金を搾り取ることでありますから、ルート分岐のような横に広いストーリー構成をするよりも短期完結型のストーリーを長期にわたって量産するほうが適していたのでしょう。

原因はともかく、この戦略がもたらした帰結の中には非常に興味深いものがいくつもあります。今回はその中から僕が個人的に特にホットな話題だと感じた二次創作の問題について述べようと思います。

 そもそも二次創作というのは、超越的視点からの介入の最たる例です。絵やSSを書く創造的な行為はもちろん、例えば先ほど例に出した「○○ちゃんは俺の嫁!」という発言も広義には二次創作といえるでしょう。つまり二次創作は、各人が二次元コンテンツを消費する際に不可避的に付きまとうものであります。以前、“俺嫁厨”という人種が幅を利かせていた頃、人々は二次創作行為に対して非常に寛容でした。誰かが二次創作を行い、それが自分の嗜好に合わないものであっても「お前の中ではそうなんだな、でも俺の中では違うぜ」と軽く受け流すことができたわけです。しかし現在、二次元アイドル界隈においては二次創作活動における解釈論争が後を絶ちません。なぜ、人々は変わってしまったのか。これも、二次元アイドルの三次元化を用いて説明することが出来ます。

 二次元アイドルの三次元化は“平行世界の統一”という表現で一般化することが出来ます。先述の通り、当初二次元アイドル、ひいては彼女たちの住む空想世界はユーザーの数と同じだけ存在するものでした。そして、この点において非常に“二次元的”であったわけです。箱の中にコピー用紙がたくさん入っている様子をイメージして頂ければわかりやすいかもしれません。箱が我々の住む現実世界、コピー用紙が少女たちの住む空想世界です。コピー用紙には同じ少女の線画が描かれていますが、色はまだ塗られていません。色を塗るのは私たちであり、その塗り方は自由です。隣の人が紙を真っ黒に塗っていても我々は自分の紙が無事であれば目くじらを立てることはありません。これが従来のコンテンツと二次創作の関係です。では、介入に対して閉じつつある現在のコンテンツはどうでしょう。現在のコンテンツでは、ユーザーの数に関わらず全員で一つの世界を見ることが可能になっています。(ここで注意されたいのは「全員が一つの世界を見ている」ではない、ということです。)介入に対して閉じ、自立的に進行するストーリーというのはいわば、自動で色塗りが為されるコピー用紙です。我々は手を動かすことなく、空想世界の少女に色が付いていくのを眺めることができます。これなら、一人一枚ずつ紙を持たなくとも箱の中に一枚だけ紙があれば十分ですね。これが平行世界の統一です。二次元少女は、超越的視点からの介入が無いという点で現実世界の少女と同じ性質を獲得し、我々の目の前に立ち上がってきます。これを“三次元化”と表現したわけです。

 さて、では全員が一つの世界を「見ることが可能」であることと「見ている」ことの違いは何でしょうか。実はこれこそが解釈論争の根本に眠る問題であるのです。

 目の前に“立ち上がって”きた二次元アイドルに対して、われわれができることは二つあります。一つはその“三次元”的性格を尊重し、介入を諦めること。もう一つは無理やり介入を行うことで彼女たちを再び“二次元”的性格の中に押し戻すことです。そしてここからが非常に大切なことなのですが、この二つの対処に優劣はありません。優劣はありませんが、一方で構造上後者は前者に対して常に支配的です。つまり一人でも介入を行えば、途端に世界は分裂してしまう。

 現在多くの界隈で共有される俺嫁厨排除の意識はこのような経緯で発生しました。ある種の人々が俺嫁厨を見ていて覚える嫌悪感はこの不可避的な世界の分裂によるものなのです。もっと言うと、ある種の人々は世界の分裂に慣れておらず、そのため他者の介入が“自分の世界の中で”行われているかのように感じているように見受けられます。みんなで見ていた一枚の絵を他人に塗りつぶされたように感じて憤慨しているのです。

 ここからは、僕個人の意見を述べたいと思います。先述の通り、解釈方法の間に優劣は存在しないのでこれから述べることは「これが正しい」という主張ではないことをお忘れなく。

 さて、まず僕は二次元アイドルの三次元化を非常に好意的に捉えています。というのも、元を辿れば現実世界に住む恋愛弱者のパンパンに膨らんだリビドーの発散先として発展してきた空想世界の住人である少女たちが、その存在の理由であった現実からの介入を振り切って自らの足で立ち上がったという事実自体(仮にそれがソーシャルゲーム界で勝ち抜く先述であったとしても)非常に美しいことだと思うのです。そして、自分と似た信念を持つ仲間との交流も非常に楽しいです。我々は同一の世界を見ているからこそ、“同じ少女”を見ることが出来、“同じ感動”を共有することが出来ます。また、僕はオタクですが、一方で二次元アイドルを見ていて覚える感動は実に非オタク的であると感じています。なぜなら、彼女たちを見て覚える感動はその自立性、完備性に対して覚える感動に他ならず、これは従来のオタク的感動の特質であった「現実世界へのコンプレックス」を完全に脱却したものであるからです。二次元アイドルを見て涙を流すオタクは、実にオタクでありながら一方で全くオタクでない。これは誇ってよいことではないでしょうか。

 これを読んでいただいた二次元アイドルオタクの皆さんも、過去、あるいは未来においてアイドルとの付き合い方に悩むことがあるでしょう。そんな時にこの記事が少しでも役に立ち、あなたのオタクライフをよりよい物にする一助となれば幸いです。

 

おまけ1 二次元化する三次元アイドル

ここからはおまけです。僕は最近よく(声優)アイドル現場に行き、またそのオタクの人々と交流するのですが、そこで非常に感じるのが「実在アイドルが二次元化している」ということです。お渡し会や握手会等の接近イベントが増え、あるいはアイドルのTwitterやブログでその“私”の部分に簡単にアクセスできるようになった今、最早実在アイドルはいつでも介入可能な存在となりつつあります。ここまではオタクにも救いがあってよかったね、という話で終わるのですが、悲しいことにこの接近の容易化を超越的視点からの介入可能性に履き違えてまるでアニメキャラに対してするような接し方をする輩が現れてしまうのです。

実際問題、AKBの恋愛禁止を初めとして最近はこの「履き違え」を誘発することでオタクのハートを掴もうという下心の透けて見える運営方法が増えているように思いますが、だからと言って本当に二次元キャラにするような接し方をしていいわけがありません。こんなことわざわざ言うまでもないのですが、声優もアイドルも実在の人間です。ひどいことを言われれば傷つきます。知ってほしくないプライベートもあります。当然そんな悪いオタクは全オタクの10%にも満たないし彼らがこの怪文書を読んでいるとも思えないんですが、頼むからそこらへんのことをわかった上でオタクをやって欲しいです。